シン・ AWS の CPU の歴史とそこから見えてくる戦略
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あけましておめでとうございます! 2017 年はじめての投稿です。
ちょうど 1 年前に「AWS の CPU の歴史とそこから見えてくる戦略」という記事を書きました。 EC2 のこれまでの CPU を振り返りつつ、AWS の CPU 戦略について考察した内容になっています。
その中で次のように書きました。
C4 からは AWS 向けに最適化された CPU が採用されました。これにより AWS は CPU を安定的に調達できるようになりました。
AWS は市場からの調達は一切やめて AWS 向けに最適化された CPU しか採用しない方針と取れます。
果たして、この考察が本当に正しかったのか? 2016 年に登場したインスタンスタイプの CPU を調べてみました。
2016 年に登場したインスタンスタイプ
2016 年も数多くのインスタンスタイプが登場しました。
- X1: メモリ最適化(エンタープライズ向け)
- R4: メモリ最適化
- P2: 汎用 GPU コンピューティング
- F1: FPGA
- I3: ストレージ最適化
- C5: コンピューティング最適化
わずか 1 年で 6 つも増えています。ユーザーとしては歓迎する進化ですね。
本題から逸れますが、X1 インスタンスは 1,952 GB のメモリを積んだモンスターサーバです。このスペックのサーバをクラウドコンピューティングで提供できるところに AWS の凄さを感じます。
インスタンスタイプごとの Intel プロセッサ
先ほどのインスタンスタイプにどんな Intel プロセッサが載っているか確認しました。
- X1: Xeon E7-8880 v3 (Haswell)
- R4: Xeon E5-2686 v4 (Broadwell)
- P2: Xeon E5-2686 v4 (Broadwell)
- F1: Xeon E5-2686 v4 (Broadwell)
- I3: 不明
- C5: 不明 (Skylake)
X1, R4, P2, F1 インスタンスは、次のページにプロセッサー・ナンバーが明記されています。
I3, C5 インスタンスは re:Invent で発表されたものの、まだ使えないので詳細はわかりません(C5 に Skylake 世代の Xeon が載ることは明言されています)。
ここ 1 年で登場したインスタンスタイプには 2 種類の Xeon プロセッサしか載っていない ことがわかります。
さらに、この中で Intel の製品カタログに載っているのは、X1 インスタンスの Xeon E7-8880 v3
だけです(ついでに言うと、Xeon E7 プロセッサが載っているのは X1 だけ)。
R4, P2, F1 インスタンス の Xeon E5-2686 v4
は Intel が AWS 向けにカスタマイズしたプロセッサです。このプロセッサは Broadwell 世代でプロセスルールは 14nm です。 1 年前と比べると着実に進化を遂げていることがわかります。
AWS の CPU 戦略
AWS は次のような CPU 戦略を立てているのではないでしょうか。
- エンタープライズのごく一部でしか使われないインスタンスには、カスタマイズされていない Xeon プロセッサを採用
- 希少インスタンスには規模の経済性が働かないので、カスタマイズにかかるコストを回収できないから
- よく使われるインスタンスにはカスタマイズした Xeon プロセッサを採用
- プロセッサー・ナンバーを統一して規模の経済性を働かせる
- コア数 (vCPU) でインスタンスタイプ間の CPU 性能差をつける傾向にある
- 1 〜 2 年おきに Intel のロードマップ(いわゆるチックタック戦略)に追いつき、インスタンスタイプの世代交代を促進
- C5 インスタンスに Skylake を採用すると明言していることからも明らか
2016 年は AWS のリージョンが一気に増えた年でもあります。オハイオ、カナダ、ロンドン、ソウル、ムンバイの 5 つのリージョンが追加され、2017 年にはパリにも追加されることが発表されています。
この急拡大の裏側には、Intel から安定して CPU を調達できるようになったことも関係しているのではないでしょうか。
その証拠に、Intel の第 3 四半期(2016 年 7 ~ 9 月)の決算発表を見てみると、次のようなトレンドが挙げられています。
Data Center Group revenue of $4.5 billion, up 13 percent sequentially and up 10 percent year-over-year.
意訳: データセンターグループの売上高は 45 億ドルで、前期比で 13% 増、前年同期比で 10% 増でした。
対するパソコンやモバイル端末向け事業の売上は 89 億ドルで、前期比で 21% 増、前年同期比で 5% 増です。売上では及ばないものの、年間の伸び率はデータセンター事業の方が伸びているのです。データセンター事業に注力することは 2016 年元日の PC Watch のインタビュー記事からも伺い知れます。
この伸び率がすべて AWS ではありませんが、データセンター事業の成長に AWS が大きく関係しているのは疑いようのない事実でしょう。
まとめ
この 1 年を振り返ってみると、AWS と Intel の協力関係がより鮮明になってきました。一時期の Wintel 連合を思い出させますね。
ユーザーである私たちはクラウドの世界でも CPU の進化と世代交代を意識し、その時代にあったベストなインスタンスタイプを選択するのが賢い使い方と言えそうです。